こんにちは。株式会社セレンデック代表の楠本です。
これは社内でも何度も話していることで、また同じ話かと言われそうなのですが、あらためて書いておきます。
ブログでも過去に近いことを書いた気がしていて、探してみたら、やはり書いていました。ただ、当時よりも確信が持てるようになったので、今回はもう少し踏み込みます。
いま社内で作っているAIの基幹システムも、まさにこの考え方で組んでいます。裏側のロジックは、使う人が気にする必要はありません。ただ、この「前提」だけは持っておいてほしいんです。
一行で言うと、こうです。
AIを今の仕事に合わせるのではなく、仕事の側をAIが動きやすいように作り替える。
抽象的で、わかりにくい話だと思います。なので、洗濯機の話から始めさせてください。
洗濯機は、手洗いをしていない
もし「手洗いを機械にやらせよう」と考えたら、どんな機械ができるでしょうか。
おそらく、洗濯板をロボットの腕でゴシゴシこする機械になります。腕の関節をどう作るか、力加減をどう再現するか、そういう話になっていくはずです。
でも、実際の洗濯機はそんな形をしていません。水を張ったドラムを、ぐるぐる回すだけです。人間が手洗いのときに絶対にやらない方法ですよね。
工程はまったくの別物になりました。それでも、出てくるものは同じ「きれいな洗濯物」です。
工場のラインでも同じことが起きています。うまく自動化できている現場は、人の手の動きをロボットに真似させたのではありません。ロボットが掴みやすいように、部品の形や置き方、並ぶ順番のほうを変えているんです。ロボットを1台入れると、部品の設計まで変わる。作業だけが変わるのではないんですよね。

結局、機械化・システム化・ロボット化というのは、そういうことなんです。人の作業を機械に持たせることではなく、機械が動きやすい形に、作業工程そのものを作り替えること。
AIも、まったく同じです。
「人の作業をそのまま真似させる」と、なぜ失敗するのか
AIを入れたのに思ったほど変わらない、という話をよく聞きます。
お話をうかがうと、原因はだいたい同じところにあります。今まで人がやっていた手順を、そのままAIにやらせようとしている。ここです。
人間の仕事の手順には、人間だからこその制約が織り込まれています。
- 一度に覚えていられる量に限りがあるので、途中で紙に書き出す
- 全員に同じ説明を繰り返せないので、口頭で伝えて「あとは察してもらう」
- 作り直すのが高くつくので、安い形で先に合意を取る
- 見ればわかることは、わざわざ言葉にしない
どれも、人間が働くうえでは合理的です。長い時間をかけて磨かれてきた知恵でもあります。私たちの業界でいえば、見積の出し方も、確認の取り方も、資料の作り方も、ほとんどがこの積み重ねでできています。だから、これを捨てろという話ではありません。
ただ、この制約はAIには当てはまりません。AIは覚えていられる量の制約が人とは違いますし、同じ説明を何度でも繰り返せます。逆に、「見ればわかるでしょう」は通じません。制約が違う相手に、その制約から生まれた手順を渡しているわけです。うまくいかないのは、当然といえば当然なんですよね。
そして、ここが一番もったいないところなのですが──人の手順をそのままなぞらせると、AIは「要らなくなった工程」まで、律儀に速くやってしまうんです。
弊社の実例|ワイヤーフレームを、やめました
具体的な話をします。
Webサイトを作るとき、これまでは「ワイヤーフレーム → デザイン → プロトタイプ」という順で進めていました。ワイヤーフレームというのは、色や写真を入れる前の、線と四角だけで「どこに何を置くか」を決めた設計図のことです。
実は弊社、2018年にこのブログで「ワイヤーフレームについて」という記事を書いています。そこにはこう書いてあります。「ワイヤーフレーム作成は、弊社でも力を入れて作成している工程です」と。
その記事を、今から自分で否定します。
いまは、ワイヤーフレームを作りません。
理由は単純で、AIを使えば最初からデザインに近いものや、実際に動くプロトタイプが出せるようになったからです。
その工程は、何ができなかったから生まれたのか
そもそも、なぜワイヤーフレームという工程があったのか。
デザインを作るのが高価で、簡単には作り直せなかったからです。だから先に、安く早く作れる線画の段階でお客様と合意を取る必要がありました。中間成果物として、確かに必要だったんです。
でも、その前提が消えました。デザインに近いものが最初から出せるなら、安い代替物で合意を取る必要そのものが無くなります。
ここが一番大事なところです。
- AIでワイヤーフレームを速く作る
- ワイヤーフレームという工程を消す
この2つは、まったく違います。前者は「今までのやり方のまま、道具だけ新しくした」状態です。工程が1つ残っているぶん、確認の往復も1回分残ります。速くはなりますが、それだけです。同業の方であれば、この差がスケジュール表のどこに効いてくるか、想像がつくと思います。

念のために書いておくと、設計そのものが要らなくなったわけではありません。目的の整理、導線の設計、検索されるための構造、更新する人の運用まで考えた作り──こういったものは、今でも全部やっています。むしろ、そこにかける時間は増えました。
変わったのは「線画という中間成果物を作って合意する」という手順のほうで、設計はプロトタイプの中で直接やっています。
変えるのは「作り方」であって、「ゴール」ではない
ここを誤解されると困るので、はっきり書いておきます。
お客様にお納めする成果物の形も、品質も、今までと同じです。変えるのは作り方であって、ゴールではありません。
洗濯機の話と同じですね。ドラムを回すという、人が絶対にやらない方法を採ったけれど、出てくるのは同じ「きれいな洗濯物」でした。むしろ、手洗いより安定してきれいになります。
AIも同じで、道順はAIに合わせて変える。でも、出来上がりは人がやったときと同じか、それ以上を出す。ここを落としたら、ただの手抜きになってしまいます。
だから、私たちの仕事の中身も変わります。手を動かす時間が減って、そのぶん「何を作るべきか」「どこで止めるべきか」を決める時間が増える。正直、こちらのほうが難しいです。
ちなみに、AIで社長を暇にする会社を掲げていますが、社長本人はまだ忙しいままです。
この前提で、AIにどう指示するか
では、実際の指示のしかたはどう変わるのか。社内に共有しているものを、そのまま書きます。
1. 完成形を先に伝える
「何が出来上がったら終わりなのか」を最初に伝えます。
途中の手順より、これが先です。ここが無いと、AIは途中で迷子になります。納品物としてどうあるべきか、誰が見るのか、どこに置かれるのか。ここまで伝えて、ようやく出発点が揃います。
2. 手順は「材料」として渡す。「この通りやれ」とは言わない
ここが、今回いちばん伝えたいところです。
自分がやっていた手順は、AIに説明してかまいません。むしろ説明したほうがいいです。背景も、なぜその順番なのかも、全部伝えてください。隠す必要はまったくありません。
変えるのは、渡したあとの一言だけです。
| 言い方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 「この通りにやって」 | AIが人の遠回りを、そのままなぞる |
| 「今まではこうやっていた。AIならどう進めるのがいい?」 | AIの道順が出てくる |
そして、当たり前だと思っていた工程をAIが飛ばしてきたら、それでいいんです。それが「もう要らなくなっていた工程」です。うちのワイヤーフレームが、まさにこれでした。
3. 触ってはいけないものだけ、はっきり伝える
守るべき仕様、変えられない制約、既存システムとの兼ね合い。
ここだけは明確に線を引きます。道順は任せるけれど、立入禁止の場所は先に言っておく、という感覚です。逆に言えば、ここさえ伝えておけば、あとは思い切って任せられます。
4. 基準は、できるだけ数字や具体で伝える
「いい感じに」「ちゃんと」「きれいに」は伝わりません。
これは人に頼むときも同じですが、AIだとより顕著に出ます。「1ページに収める」「見出しは5つ以内」「専門用語を使わない」のように、測れる形にします。
5. いきなり全部やらせず、小さく回して確認する
一発完成を狙わないことです。
1回目を早く見て、方向だけ直す。向きが違ったまま最後まで走らせるのが、いちばん時間を失います。これも、人に仕事をお願いするときとまったく同じ話ですね。
6. うまくいかないときは、AIを責める前に渡し方を疑う
「AIが使えない」となったとき、渡し方と工程の組み方を先に疑ってください。
経験上、こちらが原因のことが多いです。同じ道具でも、渡し方を変えただけで結果がまるで変わる、ということが本当によく起きます。
やってはいけない指示
逆に、これをやると止まります。
- 人間の作業手順を書き写して「この通りやれ」と言う
- ゴールを言わずに、手順だけ渡す
- 制約を伝えずに、自由にやらせる
- 確認せずに、最後まで一気にやらせる
4つとも、根っこは同じです。人にお願いするときの形を、そのままAIに持ってきているんですよね。
人に仕事を頼むときは、相手が経験者なら手順を細かく言いませんし、新人なら制約から先に伝えます。相手に合わせて渡し方を変えているはずです。AIに対してだけ、その調整をしていない。だから止まる。
とくに3番目は事故になりやすいので、気をつけてください。触ってはいけないものを伝えていない状態は、こちらが手綱を離しているのと同じです。自由にやらせること自体は悪くありません。線を引かずに自由にさせるのが良くないんです。
AIは「記憶のない、優秀な新人」だと思って接する
ここまでの話を、もう少し感覚的に言い直します。
AIをどう扱えばいいか迷ったら、こう考えてみてください。
得意分野は超絶得意。でも短期記憶しか持たない。視野は狭い。けれど、優秀な新人くん。

だから毎回、前提と完成形を伝え直す必要があります。昨日言ったことを覚えている前提で指示すると、平気で違うものが出てきます。同じ人に同じ説明を三度もするのか、と思うかもしれませんが、そういう性質なので仕方ありません。
これはAIの欠陥というより、性質です。教育の問題として扱うと、対処のしかたが見えてきます。
弊社はもともと「苦手なことはしなくていい」でやってきた
これは、実はAIの話をする前からの弊社の方針です。
苦手なことはしなくていい。得意なことを伸ばそう。社内ではエマジェネティックス(EG)という、人の思考や行動の特性を見る仕組みも使っていて、お互いを補完し合う組織を作ってきました。得意なところを伸ばして、苦手なところは他の人と仕組みで補う、という考え方です。
AIは、その究極系だと思っています。
人間の作業をそのまま真似させるのではなく、得意なところだけを任せる。苦手なところ──記憶、全体を見渡すこと、最終的な判断──は、人間と仕組みで補う。
だからこれは「AIに合わせてやり方を曲げる」というより、弊社がずっとやってきた適材適所の、延長線上にある話なんですよね。相手が人でもAIでも、やっていることは変わりません。
だから、前提を毎回そそぎ込む仕組みを作った
冒頭で触れた社内のAI基幹システムの話に戻ります。
あのシステムは、会社の決まりごと、書き方の基準、やってはいけないこと──こうした変わらない前提を、毎回無条件でAIに渡す設計になっています。
やっていることは単純です。記憶のない新人に、毎朝もう一度、前提を教え直しているだけ。人が口頭でやろうとすると必ず抜けますし、そもそも続きません。仕組みにすれば、毎回抜けなくできます。
ここが「AIが動きやすいように工程を作り替える」の、いちばん具体的な例かもしれません。AIに「ちゃんと覚えておいて」と頼むのではなく、覚えていなくても回る形に、こちら側を作り替えているわけです。
ついでに書いておくと、コーディングの仕事は、弊社ではすでにAIに置き換わっています。ただ、それで人が要らなくなったかというと逆で、役割が変わりました。書く人から、何を作るかを決めて、上がってきたものを疑う人へ。だからこそ、この新人くんの教育に手を抜けないんです。
迷ったときの、たった1つの問い
社内には、この1問だけを共有しています。
「自分はいま、AIに人間のやり方を真似させようとしていないか?」
もし当てはまったら、いったん止めて、こう考えてみてください。
「そもそも、この工程は何ができなかったから生まれたのか。その制約は、今もあるか?」
制約がまだ残っているなら、その工程は必要です。残してください。
制約が消えているなら、その工程ごと消せます。
たいてい、ここで1つは見つかります。うちの場合は、それがワイヤーフレームでした。
まとめ
少し抽象的で、掴みにくい話だったかもしれません。最後にもう一度だけ整理します。
- 機械化とは、人の作業を機械に持たせることではない。機械が動きやすい形に、工程そのものを作り替えること
- AIも同じ。人がやっていることをAIに求めるのではなく、AIが動きやすいようにこちらが手配する
- 手順は説明してよい。ただし「この通りやれ」ではなく、「AIならどう進めるのがいいか」と相談する
- 変えるのは作り方であって、納品物とゴールは変えない
ここは、本当に大事なところだと思っています。どのツールを使うかより、こちらの前提を変えるほうが、結果への効き方がはるかに大きいです。ツールは半年で入れ替わりますが、この前提は当分変わりません。
そして、この考え方はWeb制作だけの話ではないはずです。見積、請求、問い合わせ対応、社内の申請。「なんとなく今までこうしてきたから」で続いている工程は、どの会社にもあります。そのうちのいくつかは、支えていた制約のほうが先に消えているかもしれません。
弊社では、Web制作やシステム開発の現場でこの考え方を実際に回しています。自社の業務にどう当てはめればいいか迷われている方は、よろしければ一度ご相談ください。







AIを導入したんですが、正直、そこまで変わった実感が無くて