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AI×Webディレクター養成講座

「うちのスタッフは真面目です」。だから、何も変わりませんでした

「うちのスタッフは真面目です」。だから、何も変わりませんでした

こんにちは。株式会社セレンデック代表の楠本です。

弊社のスタッフは、本当に真面目です。お世辞ではなく、事実として真面目です。頼んだことはきちんとやるし、締切も守るし、雑な仕事はしません。

それなのに、業務のやり方は10年近くほとんど変わりませんでした。

改善提案が出てこない。「これ非効率じゃないですか」と言われない。決めた手順が、決めたまま何年も回り続ける。私はこれをずっと「主体性の問題かな」と思っていました。間違っていました。

先日、社内のミーティングで自動化の話をしていて、自分でしゃべりながら、答えを言っていたことに気づきました。録音を聞き返して分かったので、そのまま引用します。

「普段の仕事で『これめんどくせーな』とか『もっとこうできたらいいな』とか。今まで皆さんは、真面目で結構しっかりしてるから、やろうとなるんですけど。自分みたいな面倒くさがり屋は『やってられねえよ』って、すぐ考えるんですよ。

しかもこれは、悪いとか言われなくて。立場の問題で。自分はそこをショートカットすれば、その分ほかの仕事ができて、要はメリットがあるじゃないですか。皆さんの場合は、真面目にやったら、働いた分の給料はもらえるから、別にそこのインセンティブがあんまりないんですよね。だから、まあ真面目にやろう、ってなっちゃうんですけど」

改善が起きなかったのは、性格の問題でも意欲の問題でもありませんでした。今日はこの話です。

私は、けっこうな面倒くさがりです

先に自分の話から書きます。

私は面倒くさがりです。同じことを2回やると、3回目には「これ自動でできないの」と考え始めます。手作業でExcelを埋めていると、5分で嫌になります。この性格が、仕組みを作る原動力になってきました。

弊社がAIをここまで入れたのも、突き詰めれば「毎回やるのが面倒だったから」です。立派な経営判断みたいに言われることがありますけど、出発点はそれです。

で、私はずっとこの面倒くさがりを、良いことだと思っていたんですよ。「非効率に気づく感度が高い」みたいに。だから、スタッフにも同じ感度を期待していました。「気づいたら言ってね」と何度も言いました。

言われませんでした。10年近く。

同じ「面倒」でも、社長と社員では意味が違います

なぜ言われないのか。上の録音で自分が言っていたとおり、立場が違うからです。

私が面倒な作業を1つ省くと、何が起きるか。

省いた30分が、まるごと自分のものになります。その30分で営業に行ってもいいし、新しい仕事を取ってきてもいい。省いた分だけ、直接得をします。

では、スタッフが面倒な作業を1つ省くと、何が起きるか。

……特に何も起きません。その30分は空きますが、そこには別の仕事が入るだけです。給料は変わりません。むしろ「早く終わったなら、これもお願い」となる可能性すらあります。

さらに言うと、省くにはリスクがあります。工程を飛ばして何か抜けたら、「なんで勝手に変えたの」と言われるのは自分です。うまくいっても給料は変わらず、失敗したら怒られる。やる理由がありません。

ここを、私はずっと見落としていました。「気づいたら言ってね」は、言う側にとって完全に無報酬の申し出だったわけです。それでも言ってくれる人がいたら、それは善意です。善意に10年頼っていたら、そりゃ変わりません。

「面倒くさい」と言えない、もう1つの理由

立場の話だけでも十分なんですが、もう1つあると思っています。こちらは、もう少し根が深いところです。

「面倒くさい」と口に出すのは、悪いことだと教えられて育っているんですよ。

小学校からそうです。面倒がらずにやりなさい。手を抜かない。近道をしない。真面目にコツコツ。日本で真っ当に育つと、「楽をしたい」という気持ちに、うっすら後ろめたさがくっつきます。

だから、心の中で「これ意味あるのかな」と思っても、それを口にすると自分がサボりたがっているように聞こえる気がして、飲み込む。「みんなやってるし」「昔からこうだし」で自分を納得させる。

これ、責められないんですよ。その真面目さのおかげで、日々の仕事が事故なく回っているわけですから。真面目さは間違いなく戦力です。

ただ、真面目さは「決まったことを守る力」であって、「決まったことを疑う力」ではありません。この2つは別物で、後者を求めるなら、別に用意しないといけない。私は同じものだと思っていました。

真面目にやるほど評価される会社では、誰も工程を疑いません

ここまでを整理すると、原因は精神論ではなく、設計です。

会社が何に対して報いているかを、正直に並べてみます。弊社の場合はこうでした。

  1. 期日を守った → 評価される
  2. ミスがなかった → 評価される
  3. 言われたことを全部やった → 評価される
  4. 工程を1つ減らした → 何も起きない
  5. 工程を減らして失敗した → 怒られる

これを見て「改善しよう」と思う人がいたら、その人は聖人か、よほどの物好きです。私は物好きの側なので、自分にできることを全員に期待していたわけです。

しかも厄介なのは、1〜3が全部「正しい評価軸」だということです。期日は守ってほしいし、ミスは減らしてほしい。間違ったものを評価していたわけではありません。足りないものが1つあっただけです。

「工程を疑ったこと」に報いる仕組みが、どこにもありませんでした。

AIが来て、この話の重さが変わりました

ここまでは、正直に言えば昔からある話です。AIが来て何が変わったかというと、「面倒だと気づける人」の値打ちが跳ね上がりました。

理由は単純で、いまのAIは「これをやってくれ」と言われれば、たいていのことをやります。でも「その作業、そもそも要りますか」とは言ってくれません。言われたことをやる能力は、もう十分に安いんですよ。

一方で、「この工程、要らなくないですか」に気づけるのは、現場でその作業を毎日やっている人だけです。社長は現場の細かい面倒を知りません。AIも知りません。知っているのは、やっている本人だけ。

同じミーティングで、私はこうも言っています。

「そこは自分で全部把握しようとしてますけど、皆さんというか、本当の現場の人が気づく部分もあると思うんですよ。『これめんどくせーな』『これめんどくさいな』みたいなのを、その都度言ってもらって。じゃあ一緒に、試しにこれ作ってみていいですか、と」

現場の「めんどくせーな」が、そのまま自動化の設計図になります。AIがある今は、気づいてから形にするまでが本当に速い。以前なら「システム化しましょう」といって数十万円と数か月かかっていたものが、その場で試せます。

気づく人の値打ちが上がったのに、気づいたことに報いる仕組みがない。ここが、いまいちばんもったいないところだと思っています。

弊社で変えたこと

そこで、弊社で実際に変えたことを書きます。大したことはしていません。

「これ面倒ですよね」と言っていい場所を作りました。

具体的には、こういうことです。

  • 面倒だと感じた作業を、その場で言ってもらう。改善案はセットでなくていい
  • 言った人が直す担当にならない。これが肝心です
  • 試しに作ってみて、ダメならやめる。元に戻せる範囲で始める
  • 減らせた工程は、減らせたこと自体を共有する

2番目が、いちばん効きました。「気づいた人がやる」にすると、気づいた人だけ仕事が増えるんですよ。それが分かっているから、みんな気づかないふりをします。言ったら損をする状態を作っておいて「言ってね」と頼むのは、無理があります。

それと、私の側にも直したことがあります。「それは仕方ないよ」と即答するのをやめました。

面倒だという話が出たとき、私はつい「まあ、それはそういうものだから」と返していました。悪気はなくて、過去に検討して仕方ないと結論した記憶があるからです。でもそれは数年前の話で、AIが来てから前提が変わっているかもしれない。即答した時点で、次からその話は出てこなくなります。

「言ってくれない」の前に、私が潰していたこと

もう少し正直に書きます。言われなかったのは、私が言わせない側だったからでもあります。

思い当たることが3つあります。

1つめ。話が出たときに、すぐ答えを出していました。「これ面倒で」と言われた瞬間に「じゃあこうすれば」と返す。早いのは良いことだと思っていました。でもこれをやると、相手は途中まで考えたところで止まります。そして次からは、考える前に持ってくるようになる。あるいは、持ってこなくなる。

2つめ。改善の話を、忙しい時期に持ってこられると嫌な顔をしていました。自覚がなかったのですが、たぶん出ていたと思います。人は表情をよく見ています。1回嫌な顔をされたら、次はもう言いません。言わなくても仕事は回るので、言わないほうが得です。

3つめ。「前に検討したけど無理だった」を、そのまま持ち出していました。これがいちばん質が悪くて、検討したのが3年前でも、私の中では「検討済み」なんですよ。その3年でAIが来て前提が変わっていても、記憶のほうが先に出てきます。「それは前にやって駄目だった」と言われたら、相手は引き下がるしかありません。

3つとも、悪気はありませんでした。むしろ効率的に振る舞っているつもりでした。効率的に、改善の芽を摘んでいたわけです。

「めんどくさい」を集める仕組みを、軽く作りました

では、どうやって集めるか。弊社がやったのは、大げさなものではありません。

チャットに「めんどくさい」とだけ書ける場所を1つ作りました。それだけです。

改善提案フォームのような、項目がたくさんあるものは作りませんでした。書くのが面倒なものに「面倒なこと」を書かせるのは、矛盾しています。現状/課題/原因/解決案/効果、みたいな欄が並んでいると、書く前に諦めます。

だから、条件は1つだけにしました。「何が面倒か」だけ書けばいい。原因も解決案も要りません。それを考えるのはこちら側の仕事です。

たとえば、こんなものが上がってきました。

  • 毎月、同じ資料を2つのシステムに同じ内容で入力している
  • 確認依頼のたびに、URLとパスワードを手で貼っている
  • 月末の集計で、目視で数えている箇所がある

どれも、聞くまで知りませんでした。私は現場のその工程を、そもそも見ていないので。知らないものは、改善のしようがありません。

そして上がってきたもののうち、いくつかはその日のうちに片付きました。AIがある今は、「面倒だ」と言われてから形になるまでが本当に短いです。以前なら「じゃあシステム化を検討しましょう」で数か月かかっていたものが、その場で試せます。この速さが、次の「めんどくさい」を呼びます。

それでも、全員が面倒くさがりになる必要はありません

念のため書いておきますが、全員に「工程を疑え」と求めるつもりはありません。

「決まったことを正確にやるほうが向いている」という人はいますし、その人が無理に改善提案をひねり出しても、良いものは出ません。得意なところで戦ってもらったほうが、本人も会社も得です。

大事なのは、そこをお互いに分かったうえで合意しているかです。合意なく「なんで言ってくれないの」と期待だけしていると、双方が不幸になります。私はまさに、それを10年やっていました。

役割として「疑う人」を置くのか、全員から拾う仕組みを作るのか。そこを決めるのは社長の仕事です。決めずに精神論で言い続けても、何も起きません。

昇給は考えます。でも、制度にはなっていません

最後に、いちばん解けていないところを、正直に書きます。「疑ったこと」に、どう報いるかです。

先に本音を書きます。スタッフがどんどん改善提案をしてくれたら、さすがに昇給を考えます。これは間違いありません。会社にとって明らかに得ですし、そういう人には残ってほしい。

ただ、制度にはなっていません。

「年に何件出したら」とか「合計で何時間短縮したら」とか、そういう基準を1つも決めていないんですよ。だから、こちらが「さすがに考える」と思っていても、スタッフから見れば、いつどうなるのか分かりません。

そして、ここまで書いてきたことをそのまま当てはめると、答えは決まっています。

基準がないなら、合理的に考えて、やはり言わなくなります。

言えば手間がかかる。うまくいかなければ責任が来るかもしれない。うまくいっても、いつ何がどう返ってくるかは分からない。この条件で「それでも言おう」と思うのは、やっぱり善意です。善意頼みに戻っています。

じゃあ制度にすればいいのか、というと

素直に考えれば「基準を作ればいい」となります。ただ、これがまた難しくて。

件数で測ると、小さいものを数だけ出すほうが得になります。1件で大きく効くものより、細かい5件のほうが評価される。そうすると、本当に重い工程には誰も手を出しません。

削減時間で測ると、測るための工数が増えます。「この改善で月何時間減りました」を1件ずつ算出する。改善を評価するための事務作業が増えたら、本末転倒です。

しかも、いちばん価値がある提案は、「この業務、そもそも要らないんじゃないですか」だったりします。これは時間削減の計算に乗りません。業務ごと消えるので、比較する前の数字が残らない。

だから、正直まだ答えがありません。ここは解けていない、と書いておきます。

いま、かろうじてやっていること

制度がない代わりに、最低限これだけはやると決めたことが2つあります。

1つは、減らせたことを、その場で名前つきで共有することです。「この工程がなくなりました。言い出したのは誰々さんです」と書く。地味ですが、ゼロよりはずっとましでした。

というのも、言った本人にとっていちばん嫌なのは、無視されることだからです。金額が付かなくても、「言ったら何かが変わった」という事実があれば、次も言ってくれる可能性が残ります。逆に、言ったのに何も起きなかったら、そこで終わりです。

もう1つは、採用しなかったときも理由を返すことです。「これは今はやらない。理由はこう」と返す。黙って流すのがいちばん悪い。流された側から見れば、聞いてもらえなかったのと同じです。

この2つで足りているとは思っていません。本当は、報いる形を決めるべきです。ただ、決め方を間違えると上に書いた副作用が出るので、いまは決めきれていません。

同じところで悩んでいる社長がいたら、たぶん答えは同じで、まだ無いんだと思います。ただ、「制度がないから言わなくなるよな」と分かったうえで運用しているかどうかは、けっこう違うと思っています。分かっていないと、「なんで言ってくれないんだ」と人のせいにしてしまうので。

まとめ

長くなったので整理します。

  1. 弊社のスタッフは真面目です。それでも業務のやり方は10年変わりませんでした
  2. 原因は性格でも意欲でもなく、立場でした。社長は省けば直接得をしますが、社員は省いても給料は変わらず、失敗したら怒られます
  3. さらに、「面倒くさい」と言うこと自体に後ろめたさがくっついています。楽をしたい=サボりたい、に聞こえるからです
  4. 会社が評価していたのは「守ったこと」で、「疑ったこと」に報いる仕組みがありませんでした
  5. AIが来て、「そもそもこれ要りますか」と気づける人の値打ちが上がりました。AIは言われたことはやりますが、それは言ってくれません
  6. 気づけるのはその作業を毎日やっている本人だけです。社長もAIも知りません
  7. 弊社で変えたのは、言ってよい場所を作り、言った人が直す担当にならないようにしたことです
  8. 全員に求める必要はありません。ただし、求めるかどうかを決めて、合意しておくこと
  9. どんどん提案が出てくれば、昇給は考えます。でも基準を決めていないので、合理的に見れば、やはり言わなくなります。ここはまだ解けていません

「うちのスタッフは真面目なんだけど、何も変わらないんだよね」。もしそう思っていらしたら、責める前に、言って得をする形になっているかを見てみてください。たぶん、なっていません。弊社もなっていませんでした。



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