はじめに──現場に漂う「AIは大事…でも使わない」空気
なぜAIは“重要”とわかっていても、スタッフは動かないのか?──現場の心理と導入障壁をほどく、5つの“つまずきポイント”と処方箋
こんにちは。AIを使うのは人間であり、今までと変わらず、いやそれ以上に人間理解が重要ということで人間研究を続けていると結局古典に戻り温故知新を感じている、株式会社セレンデック代表の楠本です。
最近ふと、「あれ、こんなにAIが話題なのに、うちの現場では誰も触れていないな…?」と違和感を覚えた瞬間がありました。
ChatGPTが話題になったあの頃、「これで一気に業務効率が変わるぞ!」と意気込んでいたはずなのに、現実は静まり返っていたんですよね。
ChatGPT、Notion AI、Copilot、Claude(Anthropic)、Gemini(旧Bard/Google)、Perplexity AI、Bing AI(Microsoft)など、日本でも比較的使われやすくなってきた代表的なAIツールたち。
実際、私たちが支援する企業の多くも、ChatGPTやGeminiなどを起点に少しずつAIの現場活用が始まっています。
ここ1年でAIツールがぐっと身近になりました。
「これは革命だ」とワクワクしながら導入を試みた経営者・マネージャーも多いと思います。
でも、現場はどうでしょうか?
「業務効率化になるはずなのに、なぜか反発される」
…こんな声、たくさん聞こえてきます。
実はこの「AI導入の空回り現象」には、単なるスキル不足や知識ギャップではなく、もっと根深い“人間心理”が関わっているんです。
私自身、それに気づいたとき──「ああ、これはツールの話じゃなくて、“信頼の話”なんだな」と、ちょっとゾッとしたのを覚えています。
今回は、その背景と処方箋を、現場支援でのリアル体験も交えて紐解いていきます。
なぜスタッフはAIに興味を持てないのか?──5つの心理的ハードル
1.「時間がない」は本音か?──優先度の錯覚
スタッフの多くは「忙しいから、AIは後回し」と言います。
でもそれ、本当に時間の問題でしょうか?
実態は「何から始めていいか分からない」「上司が使ってないのに、なぜ自分が?」という“優先度の見えなさ”が根底にあります。
つまり、“緊急じゃないけど重要”が、ずっと後回しにされる構造です。
これは、AI活用が「自分ごと化」されていない証拠でもあります。
2.「やり方が分からない」は、目的が曖昧な証
「ChatGPTって、何に使えるの?」と聞かれたことありませんか?
この質問の裏には、「これを使って、自分の仕事がどう変わるのか?」が見えていない不安があります。
教える側が「この業務のこの工程にこう使うと、こうラクになるよ」と、“業務の文脈”で語れていないことが多いのです。
AIは“手段”です。
でも、「なんのために」を共有せずにツールだけ渡しても、人は動きません。
3.「AIを覚えても、給料も評価も上がらない」──最大のブレーキ要因
これ、あえて強調しておきたいのですが──
多くの現場スタッフは、
「AIを使って効率化しても、結局仕事が増えるだけじゃん」
「どうせ評価されないし、給料上がらないし」
という“やり損感”を抱えています。
そして、これは単なるひがみでも、甘えでもありません。
- 改善提案が評価制度に反映されない
- 時短しても「じゃあ他の業務お願いね」と別業務が降ってくる
- 頑張っても、やらない人との差が埋まらない
──そんな構造がある限り、「AI活用はリスクでしかない」と思うのは、むしろ自然な感覚です。
つまり、AI導入の前に「評価制度」と「報われる空気」を見直す必要があるんです。
4.「自分にできる気がしない」──スキルギャップへの恐怖
特に40代以上の方で多いのが、「自分には無理」と思い込んでしまうパターン。
でも実は、“使い方”の問題ではなく、“失敗するのが恥ずかしい”が本音です。
- 「変な質問したらバカにされるかも」
- 「他の人より覚えるのが遅かったら…」
──こうした恐怖感は、実は社内の“空気”で解消されます。
「試行錯誤していいよ」「わからなくてもOK」という心理的安全性があるかどうか。
導入担当者の役割は、ツールの説明ではなく、そういう空気を作ることだったりします。
5.「結局やらされるだけでは?」という不信感
トップダウンで「AI使え」と言われると、人は反発します。
特に、「上は使ってないのに、現場だけやらされてる」と感じた瞬間、行動は止まります。
つまり、“使うこと”が目的化してしまっている状態。
大切なのは、「なぜ今、うちの会社でこれを使うのか?」を共に考えることです。
使うかどうかの“選択権”を持たせるだけで、自主性は大きく変わります。
評価制度が変わらなければ、AI導入は空回りする
AIが得意なのは“時間短縮”と“アイデア補助”。
でも、その時間短縮の結果、「じゃあ次これやって」が繰り返されるなら──
スタッフにとっては「やった人だけが損する構造」にしか見えません。
では、どうすれば“やった人が得する”構造を作れるのでしょうか?
「行動」が報われる仕組みをデザインする
- AI活用報告を評価項目に含める
- 社内チャットで改善投稿にポイントを付ける
- 「使ってみた事例」を共有したらピアボーナスがつく
…こうした小さな仕組みが、「やってよかった」に変わる空気を作ります。
「使った人が早く帰れる」──だけでなく“評価される”環境をつくる
時短しても帰れない、では誰も動きません。
空いた時間に“別業務”を渡すのではなく、“自己成長や内省”の時間に使える仕組みへ。
「業務効率化=余白ができる」
「余白ができる=評価される」
──この循環があれば、AIは“押し付け”ではなく“希望”になります。
さらに本質的に言えば、「早く帰れる」こと自体よりも、「それが評価につながる」ことのほうがずっと重要です。
AIを活用して成果を出した人が“時間で縛られない信頼”を得て、報酬やキャリアに反映される──そんな構造が必要です。
また、将来的にはこんな課題も見えてきます。
たとえば、AIで時短して定時前に仕事を終わらせたとしても、それが時間給・シフト制の働き方だと、「早く終われば給料が減る」構造になってしまうんですよね。
つまり──
“AIで効率化しても報われない”のは、評価制度だけの問題ではなく、労働の価値観そのものに根っこがあるのかもしれません。
「8時間働くことが誠実」「長く働くほうが頑張っている」という空気が残っている限り、AI導入は“やった人だけが損をする”というジレンマを生み続けます。
AIを入れることで、本当に見直すべきなのは──
時間ではなく、価値で働く組織づくり。
今こそ、契約形態や評価制度、そして“労働そのものの定義”を見つめ直すタイミングかもしれません。
「義務化」までしてでもAIを使わせるべきなのか?
ここは、多くの経営者が悩むところです。
「いずれはみんなが使うようになるはず。でも、今は“義務化”でもしないと浸透しないのでは…?」
──たしかに、目的が違うんですよね。
経営者と従業員では、AIに期待するものが違います。
経営者は「全体最適」「収益構造の見直し」のためにAIを活用したい。
一方、現場の従業員は「自分の業務がどうなるか」「面倒が減るか」が気になっている。
このギャップを放置したまま「使え」と言っても、動かないのは当然です。
また、僕がよく聞くケースとして──
“賢い従業員ほど、黙ってAIを使って成果を出している”という話もあります。
- 「AIなんて分かんないっすよ〜」と言いながら、裏でちゃっかりChatGPTを活用
- 報告は従来どおりの形式、でも中身はAIに任せて時短済み
- 空いた時間をうまく使い、むしろ静かに成果を出している
…こうした“水面下の適応”が進んでいる現場もあります。
つまり、「使ってないように見える人が、実は一番使っている」時代に突入しているんです。
だからこそ、僕はこう主張しています:
経営者こそ、AIを正しく理解し、AI前提で業務を再設計すべきだ
単に「ツールを導入する」ではなく、業務フロー、評価制度、人材育成…
あらゆる構造を“AIを使うことが前提”で作り直す必要がある。
これは、以下の記事(Yahoo!ニュース)でもAIを前提に業務を進める内容をトップダウンで決定していて、非常に示唆に富みます:
👉 AIが使えない会社は生き残れない?「義務化」が進む現場の実態
“表向きは使ってない、でも実は使っている”という二重構造をどう扱うか。
これは、単にツール導入では解決できません。
AI前提の組織設計こそが、経営のアップデートなのだと思います。
まとめ──まず、あなた自身が「迷いながら触る姿」を見せてみませんか?
AI導入が進まないのは、スキルの問題ではなく“心理設計”の問題。
- 評価されない努力
- ラクになっても損をする構造
- 恥をかきたくない不安
- やらされ感への拒否反応
──こうした“見えない壁”に向き合わずに導入だけ進めても、うまくいきません。
まずはあなた自身が、
「これ、ちょっと怖いけど、やってみようかな」
「わからんけど一緒に試してみようか」
と、迷いながら触る姿を見せてみてください。
その背中が、チームの空気を変えます。
AIは「人の代わり」ではありません。
「人の力を引き出すための余白」なんだと思います。
その空気をつくるところから、一緒に始めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. AIを導入するメリットは何ですか?
A. AIは業務効率化、コスト削減、データ分析による意思決定の迅速化、新たなビジネスチャンスの創出など、多岐にわたるメリットをもたらします。定型業務の自動化により、従業員はより創造的な業務に集中できるようになり、企業の競争力強化に貢献します。また、市場の変化に迅速に対応するための強力なツールとなります。 - Q2. AI導入の障壁となる要因は何ですか?
A. 主な障壁としては、従業員のAIに対する心理的抵抗(「時間がない」「やり方が分からない」「評価されない」といった不安や不信感)、スキルギャップ、そして不適切な評価制度が挙げられます。また、トップダウンの一方的な導入や、AI活用が「やらされ感」につながるケースも浸透を妨げる要因となります。 - Q3. AI導入を成功させるための鍵は何ですか?
A. 最も重要なのは「人間心理」に寄り添った導入アプローチです。従業員がAIを「自分ごと化」できるよう、具体的な業務文脈での活用メリットを共有し、試行錯誤を許容する心理的安全性の高い環境を構築することです。さらに、AI活用が正当に評価され、報われる評価制度への見直しが不可欠です。 - Q4. AI活用による従業員の評価はどのようにすべきですか?
A. AI活用による業務効率化や成果を評価項目に含めることが重要です。時短した結果、別の業務を押し付けるのではなく、自己成長や内省に時間を充てられるような仕組みを設けるべきです。つまり、「時間」で縛るのではなく、「価値」で働く組織への変革が必要です。 - Q5. 経営者はAIとどのように向き合うべきですか?
A. 経営者自身がAIを正しく理解し、AI前提で業務フロー、評価制度、人材育成など、あらゆる組織構造を再設計する視点が求められます。「義務化」する前に、なぜ自社でAIを使うべきかを従業員と共に考え、経営者が率先してAIに触れる姿を示すことが、現場の意識を変える第一歩となります。
AIを活用したWebディレクター育成講座
セレンデックではAIウェブディレクター育成講座を開催しています。ご興味ある方は是非ご参加ください。体験会、説明会も実施しています。
- 個人向け:AI時代の“考える力”を育てる
『AI Webディレクター養成講座』- ChatGPTやGeminiなどを活用した、ゼロから始めるAI仕事術
- Webの基本技術、ヒアリング・構成・提案・ライティング・AI活用の“ディレクション5技能”を実務に落とし込む
- Web初心者・未経験者でも、「考える力」と「伝える力」を体系的に学べる講座です。0からAIwebディレクターとして活躍できるまでをサポートします
- 法人向け:AI導入から内製化までを設計
『AI・DX戦略構築講座(法人研修プラン)』- 現場で「なぜ進まないのか」を構造的に分析
- 部署別ヒアリングから始める“内製化の第一歩”
- 最新AIツールの活用例と、現場に定着させる教育設計をワーク形式で支援
「使ってって言っても、誰も触ろうとしない」