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なぜ日本企業は生成AIを“使えない”のか?──制度・心理・IT未整備という“DX以前”の壁

生成AI普及の壁を突破する:現場心理と評価制度から始める業務変革

本記事は、Yahoo!ニュース(2025年7月)掲載「中国81%・米国61%でも…生成AI利用『たった26%』…致命的な遅れ、日本企業の構造問題」の要約・考察を出発点に、現場の心理と評価制度に焦点を当て、生成AI活用の本質的な壁と処方箋を探る内容となっています。

参考記事: Yahoo!ニュース:生成AI利用「たった26%」の構造問題

こんにちは。AI導入をするために、まずはネット回線の契約をしようと考えています。株式会社セレンデック代表の楠本です。

最近、「日本の生成AI活用率はたった26%──中国は81%、米国は68%なのに」というデータが話題になっています。

一見すると衝撃的ですが、正直、私は「やっぱりな」とも思いました。なぜなら、現場の方々の“動けなさ”には、それなりの理由があるからです。

今回は、構造的なデータ背景と、人間の深層心理──この2つの視点から、日本企業における生成AI活用の本質的な壁と、その突破口を一緒に考えていければと思います。


経営層と現場社員の“AI活用ギャップ”というリアル

総務省の「情報通信白書2025」によると、日本の生成AI利用率は26.7%。中国(81.2%)や米国(68.8%)と比べると、あまりに低い数値です。

さらに企業単位で見ると、日本の生成AI利用率は55.2%。これも中国・米国・ドイツなどが90%を超えていることを考えると、明確な“遅れ”が浮き彫りになります。

では、なぜこんなにも使われていないのか。答えの一つは、「経営層と現場の認識ギャップ」にあると私は考えています。

実際、経営者層の中には生成AIのポテンシャルに期待を寄せ、研修を導入している方もいます。ところが、現場レベルでは「使い方がわからない」「触れる機会がない」「リスクが怖い」という声が根強く、AIが業務の一部として根付いていない──そんな実情が多くの企業で見られます。


そもそも“IT化”すらできていない現実

もっと根本的な話として──「AIを導入する前に、まずはIT化しましょう」というレベルの企業も、まだまだ多く存在しています。

例えば、こんなケースがあります:

  • いまだにFAXを使い続けている
  • 東京の信用金庫では「メールが禁止。書類は手渡し」
  • 書類を印刷して訪問で提出するのが日常業務
  • メールはようやく導入したが、チャットツールは「とんでもない」と敬遠される

…これ、令和7年(2025年)になっても現実にある話なんです。

つまり、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)以前に、IT化そのものが十分に進んでいない企業が多い。この「前提条件の未整備」こそが、AI活用の最大のハードルなのかもしれません。

そして背景にあるのは──やはり“経営層のIT理解不足”です。IT活用が遅れている企業の多くでは、経営陣自身がITやAIを「難しそう」「うちにはまだ早い」と敬遠しているケースが多く見られます。

でも本来、ITもAIも経営の武器であり、使いこなす力は経営者にとっての“リテラシー”です。経営者がもっとITやAIを学び、活用可能性に目を向ければ、現場の動きも自然と変わっていくはずです。「うちはアナログでいい」と言い張る前に、「本当にそれで勝てるのか?」と、自問してみる必要があるのではないでしょうか。


教える人が“理解できていない”教育現場の限界

もう一つの深刻な壁は、「AI教育の担い手不足」です。

生成AIを教育現場でどう活用するか──これは世界各国で課題となっていますが、日本では特に、教員側がツール自体を理解していないケースが多いのです。現場に立つ教育関係者の多くが、「ChatGPTって何?」というところからスタートしている実情もあり、当然、学習者への教育や指導が成立しにくいのが現状です。

これは企業研修でも同じで、「教える側がわかっていない」「質問されても答えられない」環境では、社員はツールを怖がるだけで終わってしまいます。つまり、教える側──管理職や人事、教育担当者の“AIリテラシーの底上げ”がなければ、広がりようがないのです。


「得」よりも「損しない」設計を

以前、当社ブログでも触れましたが、人が行動を変えるかどうかには「深層心理」と「制度設計」が大きく影響します。

  • 新しいツールを覚えるのが面倒
  • トラブル時の責任が不明確
  • 評価される仕組みが整っていない

こういった状況では、「だったら今のままでいいや」となるのが自然です。

そして、日本人特有の価値観として、“得をしたい”よりも“損をしたくない”が強く働く傾向があります。新しい取り組みは、うまくいけば“得”ですが、失敗すれば“損”。

だから、「何もしない」が合理的な選択になってしまう──この現実を前提に設計する必要があります。


打開策は「制度」から始める:再設計の3ステップ

ここまで見てきたように、日本企業が生成AIを導入・活用できない背景には、心理的なブレーキと制度設計の欠如が複雑に絡み合っています。

つまり──「やる気がない」のではなく、「やれる環境がない」のです。では、どうすればこの壁を乗り越えられるのでしょうか。

私が実際に提案・導入してきた現場では、次のような3ステップが効果的でした:

ステップ1:使ってよい“範囲”を明確化する

  • 利用目的(例:議事録作成、企画案草案など)を明示
  • セキュリティ基準とガイドラインの社内共有

利用範囲が明確になることで、現場は安心してAIを活用できるようになります。何ができるのか、どこまで許容されるのかがわかれば、無駄な不安を抱えることなく業務に集中できます。

ステップ2:「使った人が評価される」制度を設ける

  • 業務時間内での活用を許可
  • 成果や工数削減が認められた場合、報奨や評価ポイントに加算
  • 同時に「万が一の責任は個人に負わせない」ことを明言する
  • 利用しても「使っていない」と報告される事態を避ける制度的担保を整備する

このステップは、現場がAI活用に踏み出す上で最も重要な要素です。評価と責任の明確化により、「使わないと損かも」という意識が芽生え、自発的な行動が促されます。失敗を恐れず挑戦できる環境が、イノベーションの土台となります。

ステップ3:成功事例を“小さく共有”する

  • 月次会議などで気軽に発表する場を設ける
  • 成功だけでなく「やってみて分かった失敗談」も推奨
  • チーム全体での知識共有が前提。共有しないのは機会損失と捉える文化づくりを意識

成功体験を共有することで、他の社員も「自分にもできる」と感じ、具体的な活用のイメージが湧きやすくなります。小さな成功が積み重なることで、組織全体のAIリテラシーが向上し、より広範囲での導入へと繋がります

この3つを整えるだけで、「使わないと損かも」という空気が生まれ、現場が自然と動き出します。


「やらないとダメ」ではなく、「やってみたくなる」設計へ

大事なのは、強制ではなく“納得の構造”を作ること。

「AIを活用しないとダメです」と押しつけるよりも、「使ったら仕事が楽になった」「評価にもつながった」という実体験を共有する方が、よほど影響力を持ちます。

これは従業員だけでなく、フリーランスや経営者にとっても同じことです。

  • 明らかに“使った方が得”だと実感できる構造
  • 逆に、“使わないと取り残される”感覚

この2つが整えば、評価制度やリテラシーの土台が変わり、組織は自然と変化を受け入れるようになります。


まとめ:AI活用の鍵は、“人間理解”にある

生成AIのような革新的ツールほど、人の心理や制度との“すき間”にハマってしまいます。

だからこそ──

  • 人はなぜ動かないのか
  • 動くためには何が“”と感じられるのか?

これらを丁寧に設計し、評価制度や業務の再設計と連動させる必要があります。そしてその第一歩は、経営層が意思を持って「評価制度と運用ルール」を整えることだと、私は思います。

この気づきが、どなたかの現場にとって小さなヒントとなれば嬉しいです。


よくある質問(FAQ)

  • Q1. ChatGPTを使わせると情報漏洩が心配です。大丈夫?
    A. 無料版では注意が必要ですが、企業向け有料プランではセキュリティ対策が強化されています。とはいえ、グーグルやヤフーのような大手でも今後どうなるかは分かりません。本当に社会に漏洩させたくないデータがあるなら、自社内オンプレミス(自社運用サーバー)で構築するしかないのが現実です。ただし、開発費用は相当かかります。利便性と安全性、両者を天秤にかけて意思決定する必要があります。
  • Q2. 評価制度を変えるのは大変じゃないですか?
    A. 最終的には評価制度の刷新が理想ですが、まずは「使った人に責任を負わせない仕組み」を明確にすることが重要です。現場がAIを使わない最大の理由は“リスク回避”です。最悪のケースは「実際は使っているのに、使っていないと報告する」こと。これを防ぐには、まず“安心して使える環境”づくりが先決です。
  • Q3. 社員のリテラシーが低くて、導入しても使わない気がします。
    A. 「使っていい」「評価される」ことが伝われば、興味関心は自然と高まります。導入初期こそ丁寧なフォローが鍵です。
  • Q4. 教育現場ではどう教えればいい?
    A. まず教える側がツールを理解する必要があります。ワークショップ形式の学びが効果的です。
  • Q5. フリーランスにも生成AIは必要?
    A. はい。企画、文章、翻訳、調査など幅広く使えるため、個人の生産性が飛躍的に高まります
  • Q6. 成功事例がないと不安です。
    A. 組織内での積極的な情報共有が必須です。せっかくチームで仕事をしているのに情報を共有しないのは“もったいない”ですよね。小さな成功から積み上げ、「議事録作成に役立った」などの体験談を皆で共有する文化づくりが重要です。

関連導線・出典

これらの関連リンクは、本記事で取り上げたテーマについて、さらに深く掘り下げるための情報源です。ご興味のある方は、ぜひご参照ください。


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セレンデックは、そんな現場の“動き出し”をこれからも支援していきます。



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