SLM(Small Language Model)活用の全体像と実践事例──LLM時代の“次の一手”
おはようございます。AI調教師をしています、株式会社セレンデック代表の楠本です。
最近、「SLMって本当にLLMより使えるんですか?」とよく聞かれます。ChatGPTなどの生成AI(LLM)は非常に便利ですが、実際に業務に使ってみると、「それっぽいけど現場では使えない」という場面が意外と多いんですよね。
私も最初はLLMに感動しました。質問すれば即答、膨大な知識量、アイデア出しも得意──まるで魔法のように見えました。
でも、補助金申請や契約書レビューといった実務に使うと、「この情報、ちょっと古くない?」「現場じゃこの表現は通らないよ」という壁に何度もぶつかりました。
LLMとSLMの違い──私の感覚で言えば…
LLM(Large Language Model)は、素人から専門家まで100人集めて、その平均的な意見を出す仕組みです。幅広く、時には意外な発想もくれます。
しかし、その100人の中には、ネットで見聞きしただけの人や現場を知らない人も含まれます。そしてLLMが参照する情報には、“こたつ記事”と呼ばれるものが混ざります。こたつ記事とは、ネット上の情報を寄せ集めただけで、現場で検証していない記事のこと。SEO目的で作られた浅い内容や、著者がその分野に深く関わっていないケースも多く、温かいこたつに入って机上の空論を書いたようなぬるい情報──だからそう呼ばれます。
一方、SLM(Small Language Model)は、あらかじめ情報源を限定します。
例えば、「5人のベテラン専門家の知見だけを学習させる」ようなものです。ノイズを排除し、深くて正確なアウトプットを返すので、裏取り不要で現場に直結する回答が得られます。SLMとは何か──玉石混交から“玉”だけを残す技術
私はSLMを「情報の砂山から金粒だけをふるいにかけて残す」技術だと考えています。
LLMは膨大な情報を丸ごと抱えてきますが、SLMは信頼できる情報源だけを選び、その中で徹底的に深掘りします。現場では、量より質が問われます。補助金申請、契約書レビュー、製造業のトラブル対応──いずれも「ほぼ正しい」では通用しません。
SLMは、そうした業務において迷いのないアウトプットを短時間で返すための強力な仕組みです。SLM活用事例10選
1. 書籍知見の活用
- ビジネス書や専門書のSLM化
- OCR処理による全文データ化
- 著者級の知見を社内で即活用
社内に「この本の内容を完全に理解している同僚」がいるような状態を作れます。書籍をPDF化し、OCRでテキスト化してSLMに学習させれば、理論や事例を即座に引き出せます。新規事業の企画会議や社内研修で、根拠ある意見や具体策を瞬時に提示でき、ナレッジマネジメントの質が格段に向上します。 本の活用方法について、より詳しい内容は →本は“読む”から“使う”へ:AI時代の「書籍SLM化」で知識を実務資産に変える方法をご覧ください。
2. 補助金・助成金申請
- 採択・不採択事例の学習
- 審査基準・申請テンプレの登録
- 初稿作成と自動チェック
要件が複雑で「読むだけで1日が終わる」ような申請書類も、SLMに過去事例や基準を覚えさせれば、必要事項を入力するだけで初稿が完成します。さらに自動チェックで抜け漏れを防ぎ、採択率向上と作業時間削減を両立できます。
3. お役所系資料作成
- 複雑文書の要約
- 指定フォーマットへの自動変換
- AIによる再チェック
お役所系の資料は、独特な言い回しや専門用語の多さで、読むだけでも大きな負担です。SLMでまず要点を抽出し、その内容を所定のフォーマットに自動変換、最後にAIで再確認。総務・法務部門では従来比50%以上の時間短縮を実現した例もあります。
4. 社内マニュアル・FAQ
- 業務手順書やQ&Aの学習
- 現場や新人からの質問に即答
- 属人化防止と教育コスト削減
「この作業ってどこに載ってたっけ?」という探す時間をゼロにします。社内マニュアルや過去のQ&AをSLM化すれば、新入社員でも即戦力として動けるようになり、教育負担の軽減と知識共有のスピード化が可能になります。
5. 営業・マーケティング支援
- 過去の成功事例の学習
- 業界別アプローチ法の最適化
- 提案書や営業トークの自動生成
営業資料や提案書をゼロから作る負担は大きいですが、SLMがあれば顧客業界や条件に合わせた提案が短時間で完成します。商談準備を1/3に短縮でき、営業DXや提案精度の向上にもつながります。
6. 教育・研修コンテンツ
- 教材や講義録の学習
- Q&Aや確認テストの自動作成
- 受講者レベルに応じた回答
研修中や研修後の質問に即答できる環境を構築できます。受講者の理解度に応じたカスタマイズも可能で、研修効果の最大化とフォローアップの自動化を同時に実現します。
7. テンプレート化コーディング
- 社内頻出コードの学習
- パラメータ変更で即生成
- 品質の統一と保守性向上
開発現場では、似たコードを毎回探してコピペする非効率がよくあります。HTML、CSS、Python、SQLなど頻出コードをSLMに学習させれば、パラメータを変えるだけで即生成可能。結果としてコードの品質が均一化し、開発スピードと保守性の両立が実現します。
8. 法務契約書レビュー
- 契約書・修正版の学習
- リスク指摘と改善案提示
- 初期レビュー時間の短縮
契約書は条文のリスクを見落とすと致命的です。SLMに過去の契約書や修正版、法務チェックリストを学習させれば、リスク指摘から改善案まで自動で提示。初期レビューが数日から1時間に短縮され、法務部門の業務効率化につながります。
9. カスタマーサポート
- 問い合わせ履歴の学習
- 一次対応の自動化
- 複雑案件のみ人間対応
過去の問い合わせと回答をSLMに覚えさせることで、よくある質問にはAIが即時対応。複雑な案件だけ人間に回す運用により、顧客満足度向上とサポートコスト削減が可能になります。
10. 製造業トラブルシューティング
- 設備マニュアル・故障履歴の学習
- 症状入力で原因候補と対処提示
- 熟練技術者の知見を共有化
製造現場での突発トラブルは、生産ラインの停止につながります。SLMに過去の故障事例やマニュアルを学習させれば、症状を入力するだけで原因候補と対処手順が提示されます。熟練技術者の暗黙知を全員で活用でき、ダウンタイムの大幅削減が可能です。
SLM導入ステップと注意点
1. 情報の棚卸しと選別
- 必要情報だけを抽出
- 古い・誤り・未検証を排除
「とりあえず全部入れる」のはNGです。制度変更前の情報や誤事例は精度低下の原因になります。まずは信頼できる情報源のみに絞ることが重要です。
2. フォーマット統一
- 見出し・用語表記の一貫性確保
- 用語辞書の事前作成
ファイル形式は混在しても構いませんが、見出し構造や用語統一で精度が向上します。特に専門用語の統一は、回答の一貫性に直結します。
3. 学習環境の構築
- 閉域環境・アクセス制御
- 外部利用時は暗号化必須
社内サーバーや閉域ネットワークでの運用が理想です。外部利用時には暗号化や権限管理を徹底し、情報漏洩リスクを最小化します。
4. 初期モデルの試作
- 小規模データで検証
- フィードバック反映
全範囲をいきなり学習させず、まずは限られたデータで試作します。現場の使い勝手を確認し、改善を重ねてから拡張すれば無駄な作業を削減できます。
5. 運用と定期更新
- 制度改正・マニュアル更新時に即反映
- 年1〜2回の棚卸し
情報は生き物です。最新情報を保つことで、SLMの提案精度を長期的に維持できます。
よくある質問(FAQ)+解説
- Q1. SLMは中小企業でも導入できますか? はい。むしろ情報量が限定的な環境ほど効果を発揮します。中小企業では業務領域が明確で、必要な情報が限られているため、学習データを絞り込みやすいのが利点です。たとえば社内マニュアルや過去の申請書類、営業資料などを数本まとめるだけで、すぐにSLM的な環境を構築できます。大手のように膨大なデータ整理に時間をかける必要がなく、小さく始めて大きく育てる導入戦略が可能です。
- Q2. 情報漏洩の心配はありませんか? 適切な環境設定を行えばリスクは大幅に低減できます。閉域環境やアクセス制御、データ暗号化を導入すれば、機密情報の保護は十分に可能です。さらに、Google NotebookLMのようにアップロードした資料だけを情報源にするツールであれば、外部データ混入のリスクも避けられます。導入前に「どのデータを外に出せるか」を明確にしておくことが、現場で安心して使える第一歩です。
- Q3. 更新はどのくらいの頻度で必要ですか? 制度改正やマニュアル変更があったタイミングで即更新するのが理想です。特に補助金・助成金、法務契約、製造業マニュアルなど「規定変更が成果に直結する」分野では更新スピードが命です。最低でも年1〜2回の棚卸しを行い、古い情報や不要データを削除することで、AIの提案精度と現場の信頼感を維持できます。
- Q4. LLMと併用できますか? はい。LLMとSLMは得意分野が異なるため、組み合わせることで相乗効果が期待できます。たとえば、LLMで業界トレンドや新しい事例を幅広く収集し、SLMで自社の実績やルールに沿った形に落とし込む、という流れです。これにより、「外部の最新知識」×「社内の確実な知識」という最強のセットが出来上がります。
- Q5. 導入費用は高くありませんか? 初期は既存資料を使って小規模に試作できるため、ほぼコストゼロで始められます。さらに言えば、すでにChatGPTなどのAIツールを日常的に使っているなら、その環境を活用すればいいだけです。追加投資は不要で、使い慣れたUIのままSLM的運用を試せます。本格構築に移行する際に、RAG(検索拡張生成)や閉域環境など、必要な機能を追加していけば十分です。
- Q6. 社員教育に時間がかかるのでは? UIがシンプルなツール(カスタムGPTやNotebookLM)を使えば、説明は30分程度で済むことが多いです。特に最初は、既存の社内資料を読み込ませて「質問→回答」の流れを体験してもらうだけで十分。体験を通じて効果を実感してもらえれば、運用定着は自然と進みます。現場の声を拾いながら機能を追加することで、教育コストを抑えたまま定着率を高めることが可能です。
まとめと次の一歩
SLMは、LLMのように幅広くではなく、“玉石混交の中から玉だけを残す”アプローチで動くAIです。
まずはカスタムGPTやNotebookLMなどで小さく試し、効果を体感してから本格導入へ進みましょう。AIをフル活用して業務効率化を楽しんで実現していきましょう!! ここまで読んでいただきありがとうございます。 一緒に頑張りましょう。セレンデックのAI講座
セレンデックではAIウェブディレクター育成講座を開催しています。ご興味ある方は是非ご参加ください。体験会、説明会も実施しています。
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